takanawa.orgOpinion


Opinion(アンナミラーズは、どこへ行く?)

群雄割拠の時代に突入する飲食店業界の中で、何だかんだ言いつつもアンナミラーズの今後を心配する、片桐紀長による檄文(げきぶん)を再録します。


May.18.2006(TH)―アンナミラーズに明日はない

_ RinRin王国からのリンクのおかげで、以前に書いたアンナミラーズに明日はあるの?のアクセス数が凄いことになっていた。アンナミラーズ年表で既に反映済みだが、本年9月末で自由が丘・オペラシティ(初台)の2店舗が閉店することが公式発表されたことへのリアクションなのだろう。

_ 今回は、井村屋製菓の今年3月期決算が発表されたので、そのデータからまずご覧いただきたい。

_ (以下の表は、井村屋製菓全体について。連結での営業利益は、現時点でWeb上から参照できたデータのみ記載)

(井村屋製菓) '01年3月期 '02年3月期 '03年3月期 '04年3月期 '05年3月期 '06年3月期
売上高(連結、百万円) 33,568 32,339 33,302 32,877 34,132 33,557
営業利益(連結、百万円)         966 631
営業利益(単独、百万円) 850 438 631 -306 552 319

_ (以下の表は、アンナミラーズ事業部→外食事業部→フードサービス事業部→フードサービスカンパニーについて記載。
・アンナミラーズ店舗数はアンナミラーズ年表から年度末時点のものを算定。
・'04年3月期のアンナミラーズ(AM)・ジュヴォー(J)内訳は発表されず。'05年3月期のAM・J内訳は、今回決算資料から逆算で推計。)

(フードサービス(FS)事業) '01年3月期 '02年3月期 '03年3月期 '04年3月期 '05年3月期 '06年3月期
売上高(百万円) 2,093 1,982 1,906 1,737 1,560 1,259
前期比   -5.3% -3.8% -8.9% -10.2% -19.3%
うちAM売上高(百万円)       ? 1,460 1,118
AM店舗数 15 14 13 10 9 6
うちJ売上高(百万円)       ? 101 141
売上高比率(FS事業/連結) 6.2% 6.1% 5.7% 5.3% 4.6% 3.8%
(事業)営業損益(百万円) -190 -21 -60 -156 -236 -221

_ 以前から、井村屋製菓についてアナリストからは「事業の『選択と集中』が必要である」との指摘がなされてきていた(名証IRエキスポ資料など)。実際、他事業とのシナジー効果が望めず、かつ売上高比率も微々たる存在でありながら、事業部(現カンパニー)の営業損失額は到底無視できるものではない。従って、アンナミラーズ事業の大リストラが行われたとしても不思議ではない。
…と思ったのだが。

_ 今回はじめてアンナミラーズとジュヴォーの売上内訳が明らかになったわけだが、ジュヴォーの苦戦ぶりが明らかになったといえる。2003年5月14日のリリースでは、こう書かれていた。

カフェタイプの店舗は、月商1,000万円〜1,400万円、ブティックタイプの店舗は月商800万円〜1,000万円を目標としています。

両タイプ合わせて年間2店舗程度の出店を目指し、5年目の平成19年度には10億円程度の売上を目標としています。

この発表を額面通り受け止めるならば、カフェ1店舗(玉川)とブティック1店舗(目黒)を合わせて年間2億16百万円程度の売上がなければいけない。
((1,000+800)×12=21,600)
しかし、実態はご覧の通りである(1億41百万円)。もちろん、平成19年度目標など、到底達成できないだろう。
一説によると、ジュヴォーはアンナミラーズからの業態転換を想定していたということらしいが、実際には当初予定していたカフェ・ブティックはその後新規出店されることなく、物販のみのショップがデパート内に出店するにとどまっている。あくまで私の推測に過ぎないが、今後カフェの新規出店はおそらく無いと思われる。

_ 一方、アンナミラーズについては、店舗数が減った分売上は落ちているわけだが、1店舗あたりの売上はそう極端に落ちているわけでないことが推測できる。
(もちろん、実際には催事等の売上分があるので、単純には計算できない。また、テナント料や人件費などの固定経費もあるので、1店舗あたりの営業損益までは分からないが。)

_ …なんだか、「外食産業を取り巻く厳しい環境下において、アンナミラーズについては、徹底した収益改善を図るべく、強い姿勢をもって改革に臨む。その一方で、ジュヴォーについては、フードサービス事業の命運を賭けて開始した事業であるので、今後も積極的に店舗展開活動を進める」と言われているようにしか、私には思えない。
言い方は悪いが、アンナミラーズはスケープゴートにされたのだ。

_ この責任を、誰が、どのようにおとりになるのか、お聞かせ願いたい。(←後藤隊長風に読め)

_ ところで、「平成18年3月期 中間決算短信(連結)」には、

アンナミラーズ30年来の カミサリー・店舗 の体制を、効率・効果・利益性の視点から統廃合も含めて検討に入りました。

との記載があったが、いよいよこれが現実のものになるかもしれない、と予想する。というのも、アンナミラーズ年表をご覧いただければ分かるとおり、アンナミラーズがかつて3店舗しか無かった時代には、カミサリー(経堂)は存在しなかったのである。
ただ、パイをどこでつくるかという問題は残るのだが、例えばこれを目黒(現在改装工事中、ジュヴォーの喫茶コーナーは廃止となる予定)に設置してしまうことも考えられる。
いずれにせよ、経堂のカミサリーが廃止されるとすれば、それは、もうアンナミラーズは減ることはあっても増えることはない…ということを意味する。ことによると、あと5年くらいがヤマかもしれない。

 (追記:その後、経堂のカミサリーはパイ製造部門のみを「フードサービスファクトリー」と称し、津工場(第五部門)へ移転、2006年11月に閉鎖された。跡地は三菱地所に売却されることが、2007年1月に発表されている。フードサービスカンパニー本部は、府中市に移転。
なお、日本経済新聞で井村屋、外食事業を立て直し・アンナミラーズ出店再開へとの報道がなされている。アンナミラーズは復活できるのか?を参照。)

_ 前回の拙文では、要するに「客に『もう一度来たい』と思わせるだけのサービスを提供せよ」と言いたかったわけだが…。

_ 以前読んだ、『腐った組織をどうやって救うのか』という本では、"「再生の神」は細部に宿る" というフレーズが出てきた。理念・目標が定まっていれば、細部をどのようにすればよいのか、おのずと定まってくる…ということだ。

_ 「なぜ良いサービスを提供する必要があるのか」も理解できずに、「これからは、店が客を選ぶようにならなければ」なんて言っているような店だったら、いずれその店は、客から見放されるだろう。

 

_ なお毎度のお断りだが、片桐は飲食店で働いた経験は無く、また、井村屋製菓株式会社の関係者でもないので、念のため。また、予測に属する部分は片桐の私見なので、井村屋の社員に尋ねたりしないように。



www.takanawa.org配下のコンテンツについて

© Copyright TAKANAWA-GUMI(高輪組) 2005,2006. All rights reserved. [MAIL]